大正デモクラシーの根幹的思想であり象徴である「民本主義」
吉野作造の唱えたこの思想に題を求め、「主権」の意義について村下が語る。
民本主義とは?そして主権とは一体何であるのか?

■ 主権概念の危険

『憲政の本道を説いてその有終の美を済(な)すの途を論ず』って知ってるかな?

学校ではもうそのあたりになると通過するって感じの授業になっちゃってますよね。
とりあえずカリキュラムだからサクっとこなしておくけど本筋は試験用の授業でいくぞ、みたいな。
だから知ってるには知ってますけどそれは「聞いたことがある」ってレベルです。
吉野作造でしょ?民本主義の。

1916(大正5)年に中央公論誌上に発表された論文ですよね。
大正デモクラシーの象徴的な論文として捉えられています。

「民本主義」って必ず教科書には載ってますもんね。小学校あたりから既に載ってませんでしたっけ?
それについてはあまり説明受けた覚えがないからよくわかんないんだけど。

「デモクラシー」って言うからには「民主主義なんじゃない?」って思うよね。
でも当時はどうもデモクラシー=民本主義って訳が一般的だったみたいなのよ。

吉野自身も当時多くの人に使われていた言葉だったから自分も使っただけだって回顧してますよね。

当時はそれが当たり前だったけど、逆に当時しか使ってなかったからこそ違和感があるんじゃないかな。
たしかこの頃孫文が辛亥革命をおこして似たような言葉を残してるから余計にこんがらがったりしてね。わたしのことだけど(^_^;)

民本主義も民主主義も同じなんでしょ?どっちでもいいじゃんとか思うんだけどなぁ。

さて、そこに村下が講義する意味もあろうかってモノよ。
民本主義と民主主義名前は似てるしどっちもデモクラシーの訳語であるから同じはずなんだけど、これがちょっと違うんだなぁ。

デモクラシー=民本主義、デモクラシー=民主主義でしょ。だったら民本主義=民主主義じゃん。

思想界、言論界の間ではまぁ暗黙の了解とでも言うのかな。あえて民本主義って言ってたとも思えるんだけどね。
民本主義は決して民主主義ではないって言うのが当時の建前だったのよ。

わかんないなぁ。

大日本帝国憲法第1条は「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」って書いてあるんだよ。
民主主義って言うのは天皇主権に対する国民主権を指すモノだからもう明らかに危険思想に属しちゃうのね。

それでなくても「大逆事件」で憲法理念が大きくクローズアップされてた時期だけに、民主主義なんて怖くて言えなかったんじゃないでしょうか。

憲政を突き詰めようとすればどうしても天皇と言う存在を避けるワケにはいかないんだけど、民主主義の概念にまで踏み込むワケにいかない。
結果天皇制の前にかなり日和った論調になっちゃったんだね。

このあたりが左側の人たちからすれば「大正デモクラシーなんて唾棄すべきモノ」って論調が出る所以なんでしょうか。

え?じゃあ民本主義って何なんです?主権がどうのこうのって言うのじゃないの?

大日本帝国憲法の下で憲政を論じるのに天皇を避けるってことはそれはすなわち主権の在処を避けるってことと同意と思って良いと思うのね。
実際吉野の論ずる民本主義の「本」って言うのは主権がどうのこうのってことじゃなくって、国家の活動形態と目標を国民本位にしましょうってことなの。

論文の中でも「民本主義は第一に政権運用の終局の目的は”一般民衆のため”ということにあるべき」、「第二に民本主義は政権運用の終局の決定を一般民衆の意向に置くべき」って書いてます。

選挙権の拡大と代議政治によって国民全体に利益をもたらそうと、そういうコトなの。

わからないじゃないですよ。
てゆーか、今の象徴天皇と似てる気もする。

巧みに大日本帝国憲法に譲歩しつつ民主主義の心臓部に肉薄してる感はあるわね。
天皇は抽象的な観念として高いレベルに持ってきて、実際の政治は憲法の制約の中で民意を繁栄して行こうって論調だから。
天皇の意志と国民の意志ってーのは根本で繋がってるんだし、向かう方向って言うのは憲法で示されてるんだから細々としたことは選挙とそれによってできる議会に任せましょうって考えなのね。

憲法の制約ってのがあるけど似てるなぁ。今も同じ様なモノじゃないですか。
天皇の意志と国民の意志が同じかどうかはわかんないけど。

天皇を政治から外して高次の次元へ持って行こうって考えはそっくりですよね。
天皇って言う特殊な存在を認識しつつかつ国民による政治を目指すのであれば、ここしか行き着く先は無いのかもしれません。

言ってしまえば「主権」なんてものが誰かに所有されてはいけないんじゃないかな。
主権って「何物にも制約されない最高権力」だからさ、天皇個人であれ一部の政治家であれ国民であれそんなすごいモノを持っちゃダメだとも思えるんだよね。
「無制限の権力」なんて神様じゃあるまいし。

戦前の現人神って考え方でいけば天皇主権も当然って思えたりしますね(笑)

ま、近代政治ってのは辛酉革命のような権力の神授説は否定するところから始まってるからね。

でも主権を国民が持ってはいけないってのはわからないですよ。

国民って概念、あえて概念って言うけどこれが完璧だなんてとんでもない。
完全無欠なら主権って言うのを与えても良いと思うよ。でもそんなワケないじゃない。色んな人がいて色んな考えを持ってるんだもん。国民全体が間違った方向に向いてしまうことだってあるんだよ、民主党政権でわたしたちはそのことが身に染みてわかったハズ。
「無制限の権力」なんて危なくてしょうがないものなのよ。

じゃあどうすれば良いんです?
また天皇に主権を戻すの?

だーかーらー、天皇だって完全無欠じゃないでしょって言ってるじゃん。

わかんないですー

そもそも具体的に誰かって指定すべきでもないし、主権そのものを論ずることが無意味、どっちかって言うと害ですらあると思ってる。

これは法哲学家のH・ハートやF・ハイエクといったあたりも指摘してますよね。プラトンなんかからも民衆による支配に衆愚政治を読みとることもできますし。

実在の誰かってことじゃなくて抽象的な観念としてのモノに与えるのならわかるんだけどね。
国民なり天皇なりそれを神格化して完全無欠の存在にしてしまえばそれでも良いと言えるかな。

戦前の天皇であったり戦後の国民であったりがそうなりますよね。

村下センセの考えだと戦前の天皇主権もOKってことに?

あくまで観念としてはね。天皇は大日本帝国憲法で神格化された存在だったんだしさ。
これは現代のある意味国民を神格化してる左巻いた思想でも同じだよ。でもそれって全然意味のないことだと思わない?天皇の名による大本営発表と今の「国民のタメ」って政治家の言動とレベルの差があると思える?

う〜ん・・・

戦後政治や教育って言うのは特定の誰かを神格化することを避けることこそ合理化であり科学的であるって言って来た訳です。

その考えでいけば国民だって絶対的なモノとは言えないでしょ。
だから国民主権だの主権在民だのどうのこうの言ってもしょうがないんだよ。吉野の言うような実際に国民に利益がもたらされてるかどうかが大事なだけで。

日和見のハズの吉野の主張もあながち見捨てたモンじゃないワケですね。

彼がそれを狙ってたかどうかは知らないし、日和った結果がそうなっただけカモしれないんだけどね。
ただ吉野の論の欠陥って言うのは民本主義の「民」への掘り下げが甘いってあたりにあるような気がするなあ。

普通選挙実施にあたっては富裕層も貧窮層も含めて全体的に範囲を見てますよね。

他に何があるんです?全部網羅しちゃってるじゃないですか。

イヤ、彼の頭には今現在の人のことしか頭に入ってないんだよ。空間軸的な広がりしかない。
でも本来はもっと時間軸的な広がりを示さないとならない思うの。

過去・未来の人も視野に入れろってことですか?
でも過去の死んじゃった人は選挙にも行けないじゃないですか。

だから過去の人たちが残した意志・精神って言うのを今生きる人は受け継がないといけないの。
伝統とでも言うとわかりやすいのかな。それとこれからの人に対してはわたしたちははっきりとした意志を残していかないとダメだと思うのね。国民もそうだしましてや政治家が次の世代に託そうとか甘いこと言ってんじゃないよって。
現世利益がどうのこうのってお話しちゃうと宗教的になっちゃうからしないけどさ。

それこそまさに温故知新ですか!歴史を学ぶってそんな意味合いもあったんですね〜

成功も失敗も含めてね。今だけ見たってダメだし未来を夢見るだけでもダメなのね。
イヤなところであっても過去を学んでそれを背負い、次へ伝える。それが今を生きる人の責任なのよ。
そう言う意味でいけば主権がどうのこうのとかって考えるのは良いネタじゃないかな〜って村下的には思っちゃうね。

結局主権ってあたりに踏み込んでるような気がしないでもないんですけど・・・。

あのね、「国民」って一口に言ってもそれは今のわたしやあなただけじゃなくって歴史上の国民全体のことを指さないとダメなのね。
日本国憲法にある「国民の総意」ってのはホントならば先人達も含まれてるって考えなきゃいけないのよ。そう言う考えに立脚してからなら主権なんてもの凄いものを虚構的で抽象的な存在の国民として預かることができる。あくまで主権は国民にあると認識しなくちゃならないのなら、少なくともわたしはそうでも思わないと請け負うことできないよ。

かなり哲学的ですねぇ。そんなに深いモノなんですかねぇ。
ってゆーかこれって大正の講義なんですか?

入れるとすれば大正に入れるしかないじゃん。
近・現代史はこういう方面のお話をしないとならないから難しいのよ・・・。

と、泣きが入ったところで終わるんですね(笑)

天皇の存在ってのはホントに難しいんだから〜(/_;)

         
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